トップダウン、ボトムアップに代わる第三の組織マネジメント手法「ホール・システム・アプローチ」
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<この記事のポイント>

  • ホール・システム・アプローチは、関係者全員が対話することで一体感を高め、創造的な意思決定を行う手法
  • 組織が抱える課題やテーマをオープンにすることで議論を生み出し、自律的な問題解決が期待できる
  • このアプローチには4つの手法が存在する。NHKのテレビ番組「ハーバード白熱教室」でも知られるマイケル・サンデル教授の講義スタイルも本アプローチの1つ

企業という1つの組織は、部門や課、チームなど、機能や役割で区分けされた集合体によって構成されています。しかし、組織を細分化することで効率性や専門性は高められますが、一方で意思疎通を図ることが難しくなったり、コミュニケーション不足により新たな問題が生じたりするケースも多くあります。このように分化した組織やコミュニティをつなぐ「対話の場」を設ける手法として、いま注目を集めているのが「ホール・システム・アプローチ」です。

ホール・システム・アプローチは、1980年代から1990年半ばにかけて米国で開発されたアプローチの1つ。組織や役職、担当分野の垣根を取り払い、関係者全員が特定の課題やテーマについて語り合う方法論の総称です。大勢の参加者から意見を引き出し、大規模な対話を通して未来像や創造的な意思決定などができることから、多くの国々で広く活用されています。

ハーバード大学のマイケル・サンデル教授がNHKのテレビ番組「ハーバード白熱教室」で展開していた、正解を押し付けず、参加者から意見を集約していくスタイルも、ホール・システム・アプローチの1つです。

ホール・システム・アプローチでは、対話を主導する議長(主体者)はいますが、議長はあくまで枠組みを設けるだけで、話し合いの中身はその場に参加する関係者全員に委ねられます。海外では大規模カンファレンスで用いられることが多く、そこで実際に体感した人が国内に持ち込んだことから、日本でも徐々に浸透してきています。

トップダウン、ボトムアップに代わる、第三の組織マネジメント手法

このアプローチがビジネスの現場で流行している背景についてみていきます。

たとえば、ビジネスの現場で何か問題が起きたとき、その原因を追究したくても、さまざまな事象が複雑に絡み合っていて解きほぐすのに時間がかかってしまうといったことがあります。また、原因を追究すると組織や個人の責任問題が浮上し、その処理に手間がかかるということもあるでしょう。そして、そうこうしているうちにビジネスの状況は変わってしまいます。

その変化のスピードに対応し、問題解決を早急に進めるためには、関係者にそれぞれの立場や思惑があっても、目指すゴールを共創し、そこにたどり着くことだけにフォーカスすることが重要です。

そこで従来のトップダウンやボトムアップに代わる組織マネジメントの第三の手法として、関係者全員での対話を重視するホール・システム・アプローチが注目されているのです。

ホール・システム・アプローチの4つの手法

ホール・システム・アプローチには、大きくわけて4つの手法があります。

(1)ワールド・カフェ

「カフェ」のようなリラックスした雰囲気のなか、参加者が少人数に分かれたテーブルで自由に対話を行い、時々ほかのテーブルとメンバーをシャッフルしながら話し合いを発展させていく、相互理解を深めて集合知を創出する組織開発の手法。

(2)OST(オープンスペース・テクノロジ―)

あるテーマについて関心や情熱を持つ関係者が一堂に会し、解決したい問題や議論したい課題を自ら提案した上で、自主的にスケジュールを調整して話し合いを進める手法。参加者の当事者意識と自己組織化能力を最大限に引き出すことにより、全員が納得できる合意への到達を目指すもの。

(3)AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)

問題点や弱みなどのネガティブな側面には焦点を当てず、強みや価値などのポジティブな側面に焦点を当てて、未来の可能性を切り開いていく手法。月への宇宙飛行計画である「アポロ計画」もこの手法を用いてプロジェクトを推進した。ケネディ大統領とNASAが「10年以内に人類は月面に立つ」と公式に宣言したことで、ロケットの開発に関係者が本気で関わり、そのゴールにたどり着くことだけに集中し、計画を成功させたように、目指す姿の実現に向け、前向きに考えるよう導くもの。

(4)フューチャー・サーチ

自主参加が基本のOSTと異なり、利害が異なる関係者全員が参加して課題を共有する手法。過去と現在の状況を共有した上で、全員が望む未来のビジョンを確認し、協力関係を生み出し、参加者が自己の責任においてアクションプランの作成を行うもの。


これらの手法は、扱うテーマや組織の大きさに応じて使い分けることが大切です。特に重要なのは、対話のルールをきちんと設けることと、決まりきった議論に陥らないようにバランスを保つこと。自発的な意見を促しつつ、単なる雑談に終止しないように、最低限のコントロールを行うファシリテーターの存在が求められます。

現状・問題の共有やビジョンの作成、問題解決の方法の探索、活動シナリオの構築など、さまざまな場面で有効に働くホール・システム・アプローチ。この手法をうまく活用できれば、組織全体の一体感を強め、中長期的には組織の文化を作ることができるはずです。
 

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松本利明(人事・戦略コンサルタント/HR総研 客員研究員)

編集:大城達矢(HRレビュー編集部)


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