元米国P&G会田秀和氏が語る「経営を変える、攻めの人事へ」―危機感をもって変革すれば、日本を再生できる
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元P&G(ザ・プロクター・アンド・ギャンブル・カンパニー)米国本社の組織変革・HR担当ヴァイスプレジデント、会田秀和氏による「経営を変える、攻めの人事へ」と題した本連載(全14回)。第1回は「危機感をもって変革すれば、日本を再生できる」というテーマでお送りします。

危機感をもって変革すれば、日本を再生できる

私が人事を担う人たちにまず問いたいのは、人事のリーダーとしてどのような危機感をもっているかです。なぜなら日本の企業を改革し、再生するためには、この危機感が非常に重要だからです。

私は約30年間P&Gに勤務し、その間、問題を抱えた世界各地の拠点で組織の変革を任されました。ビジネスの業績を上げるためにさまざまなてこ入れを行い、そして最後はアメリカ本社で、P&G全体の改革を手がけました。

その中でいろいろなことを学びましたが、中でも身にしみて感じたのが、この危機感の重要性でした。改革を断行するリーダーの心の中にどれだけ危機感があるか。それによって改革の成否が決まるといっても過言ではありません。

今、業績不振に悩む日本の企業に最も欠けているのは、この危機感だと私は思います。過去の成功にとらわれ、思い切った改革ができないのは、自分たちが直面している危機と正面から向き合っていないからです。

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日本人は「主君の誤った行動を、命がけでいさめる」

しかし、日本が元々そういう危機感の欠如した国だったかというと、決してそうではありません。私は、新渡戸稲造の『武士道』という本を読み、日本人の心に潜んでいる素晴らしいものを発見しました。そこには次のようなことが書かれていました。

「武士は主君が誤ったことをしようとしたとき、命をかけてそれをいさめる」

これこそが危機感であり、人事がもたなければならない心構えです。日本人は元々こうした覚悟をもっている素晴らしい民族なのです。今、日本企業の改革・再生をめざすなら、ぜひこの覚悟をもう一度思い出してほしいのです。私が今こうして日本で仕事をしているのも、日本が好きだからです。30年以上にわたって海外で仕事をしてきたからこそ、この国の素晴らしさを知っています。

私は60歳でP&Gを退職した後、バックパックを背負い、短パンをはいて世界中を回り、これから何をしていくか、どう生きていったらいいかを考えました。ワイオミングの山の中に家を買い、残りの20〜30年の人生を釣りでもしてのんびり暮らすという選択肢もありました。 しかし、そのとき思ったのは、自分は山形県生まれの日本人であり、日本のために何かしたいということでした。危機に陥っている日本の会社・組織を助けたいと心の底から思いました。だから日本に帰り、さまざまな企業の改革・再生をサポートする仕事を始めたのです。 

日本は何度も変革と成長を成し遂げてきた

私は1970年に米国へ渡り、マリオット・スクール・オブ・ビジネスで行動科学を学びました。そのころの日本には本当に勢いがありました。ソニー、パナソニック、ホンダ、トヨタの商品がアメリカのどこにいってもあふれており、日本の競争力は当時世界ナンバーワンと言われていました。アメリカは日本を恐れてさまざまな規制をかけようとし、海外の識者たちは日本のやり方、成功の秘密を知ろうとしました。

私はそのスクールで指導教授に「日本について語ってくれ」と頼まれ、ジャパニーズ・ウェイについて60分の講義をしたことがあります。UCLAのウィリアム・G・オオウチは日本のやり方について『セオリーZ』を、ハーバード大学のエズラ・ヴォーゲルは『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を書きました。

ところが今、世界における日本の競争力は22位、生産性はアメリカの半分しかありません。ギャラップ社の調査で企業の活力を計ったエンゲージメントスコアでも、アメリカやヨーロッパといった主要国のうち日本のスコアは2014年時点で最低という結果が出ています。それはなぜなのでしょうか? 日本がもう一度活力を取り戻すことはできないのでしょうか? 私は、そんなことはないと思います。

歴史を振り返ると、私たち日本人は何度も大きな変革を成し遂げてきました。明治維新後のめざましい成長と発展、そして第二次世界大戦敗戦後のゼロからの復興と飛躍。いずれも、今よりはるかに何もない状態からの挑戦でした。そして私たちの親の世代は、日本のGDPを世界第2位まで押し上げたのです。こうした変革と成長を実現できたのだから、今の危機も乗り越えられないはずはありません。

成長から成熟を経て衰退にさしかかる日本。しかるべき変革を成し遂げる時期

それでは今、何が問題なのでしょうか? それは、過去の成功体験を引きずり、やり方を変えていこうとしない姿勢です。どんなに素晴らしいやり方も、同じことを続けていると、成長を経て成熟の段階を迎え、やがて衰退してしまいます。日本は今まさに成長・成熟の段階を過ぎて、衰退へとさしかかっているのです。今までと同じことをいくらがんばってやっても、違う結果は生まれてきません。思い切った変革が必要です。

海外で長く仕事をしてきた経験から、私は「日本には素晴らしい潜在能力がある」と断言できます。努力・知力・達成力・組織力・感性・開発力・道徳観など、他の国々とくらべて極めて優れた資質を、われわれ日本人はもっているのです。これがあるかぎり、しかるべき変革を成し遂げれば、私はもう一度強い日本を取り戻すことができると確信しています。

 

>>「経営を変える、攻めの人事へ」――【第2回】必要なのはリーダーの危機感と新しい成功モデル

 

【著者プロフィール】

元P&G米国本社 組織変革・HR担当ヴァイスプレジデント/AIDA LLC代表

会田秀和氏

写真_会田氏

ブリガム・ヤング大学マリオット・スクール・オブ・ビジネスで組織行動学修士を取得後、オハイオ州シンシナティ市にあるP&G本社に入社。同社において、人事および組織デザインの社内プロフェッショナルとして、P&Gフィリピンの改革、P&GジャパンとP&Gコリアのグローバル化、P&Gグレーターチャイナの改革などを手がける。現在、AIDA LLC(Aida Consulting LLC)代表として経営戦略、組織デザイン、戦略的人材マネジメントに関するコンサルティングを行っている。他にアストラゼネカ株式会社の社外取締役、ビジネス・ブレークスルー大学大学院客員教授(組織行動学)も務める。著書に『P&G流 世界のどこでも通用する人材の条件』がある。

初出『経営を変える、攻めの人事へ』(HR総研) 編集:HRレビュー編集部

 

 

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