元米国P&G会田秀和氏が語る「経営を変える、攻めの人事へ」―P&Gジャパンの変革における人事戦略とその実践
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元P&G(ザ・プロクター・アンド・ギャンブル・カンパニー)米国本社の組織変革・HR担当ヴァイスプレジデント、会田秀和氏による「経営を変える、攻めの人事へ」と題した本連載(全14回)。第7回は「P&Gジャパンの変革における人事戦略とその実践」というテーマでお送りします。

>>「経営を変える、攻めの人事へ」連載記事一覧はこちら

 

P&Gジャパンの変革における人事戦略とその実践

P&Gジャパンの変革で展開した人事戦略を紹介します。人事戦略はそれだけで独立しているものではありません。まず外的な環境、マクロな経済状況があり、それに対するP&Gジャパンのビジネス戦略を考え、その戦略を実行するための人事戦略を作ります。これが戦略的人事というものです。

人事戦略はビジネス戦略を踏まえて作られるわけですから、人事のリーダーはビジネス戦略を十分に理解している必要があります。ビジネス戦略は会社の業績を上げるためにあり、会社の業績を上げるために人事戦略はあります。ビジネス戦略の目標を達成するために、組織・文化・人材・能力をどうやってよりよいものにしていくか、それが人事戦略なのです。

その重要性については本連載(【第3回】経営に参画し、変革をリードする新しい人事の役割)でも触れましたが、生産性の向上、コストの削減も人事戦略に含まれます。今回は、P&Gジャパンの人事がこれらをどのように達成していったかを見ていきましょう。

4年間で74%の生産性向上を実現

P&Gジャパンでは、4年間で74%の生産性向上を達成しました。そのためにまず取り組んだのは、31%の人員削減でした。そして、海外から日本へ赴任する駐在員を57%削減しました。なぜなら、日本の人材と比べてコストが3倍かかるからです。これ以前は日本に人材がいなかったため、海外駐在員に頼らざるを得なかったのですが、日本の人材を育成することでこれに替えることができました。さらに、一般事務職も50%削減しました。そして、この間に売上高を31%成長させることができたのです。

これらを実現するために、次の4点にてこ入れを行いました。

・業務の簡素化、標準化

・業務の集約化

・業務の外部委託

・専門能力向上

単なる人員削減ではなく、組織として必要な能力を整理するためのてこ入れを、もれなく、タイムリーに行うことで生産性は向上します。なお、人員削減は希望退職を募って行いました。日本の企業では人員削減が困難といわれますが、難しくても正しいことをやり抜く精神があれば、できないことは絶対にないのです。

社員1人当たりの生産性が向上して初めて人事の役割は果たされる

P&Gジャパンで変革を行った6年間の、各年度の1人当たりの売り上げと生産性

P&Gジャパンで変革を行った6年間の、各年度の1人当たりの売り上げと生産性

この表は、変革を行った6年間の1人当たりの売り上げと生産性をまとめたものです。下段の「1人当たりの生産性」は、1999/2000年度を100としたときの各年度の生産性を表しています。

ここで注目してほしいのは、1人当たりの売り上げです。人事担当者でこれを見ている人がどれだけいるでしょうか。しかし、たとえ売り上げが向上し、経費が削減されても、社員1人当たりの生産性が向上しなければ人事の変革は成功したとはいえません。ここまでしっかり結果を求めることで、初めて人事の役割は果たされるのです。

NPVで87.3億円のコストを削減

コストの削減ではまず、成果主義に反する諸手当制度の廃止と、買収した会社の福利厚生制度の統一(グローバルのP&G化)を実行しました。具体的には、生産性向上と並行して以下の5つのてこ入れを行いました。

・社宅制度の廃止

・人事制度、福利厚生制度の抜本的見直し

・人員削減(総合一般職、事務職)

・海外駐在員削減

・新しい業務の方法の提供

当時、P&Gジャパンには社宅がありましたが、これは維持費がかかりますし、能力主義・成果主義に反する制度なので廃止しました。「日本では社宅を廃止することはできない」という意見もありました。しかし、社員を評価する3段階のレーティングで、レーティング上位の給料が高い社員に社宅があてがわれているのに対し、レーティング下位の給料が低い社員にはあてがわれていなかったのです。こんなバカな話はありません。

諸手当に関しては、家族手当制度を廃止しました。子供を何人持つかは個人の自由であって、会社がサポートする理由はありませんし、成果主義とまったく関係がないからです。出張手当も成果主義とは無関係のため廃止しました。

人員削減は生産性向上の説明で紹介したので省略しますが、組織能力を総合的に見直し、徹底して行いました。

ここに挙げたコスト削減策は一部ですが、全体で31.2億円を削減しました。また、事業やプロジェクトなどの経済的価値を測定する指標であるNPV(Net Present Value)で見ると、87.3億円の削減を達成したことになります。

人事戦略がもたらすベネフィットがあらゆる部門の戦略を推進させる

しつこいようですが、生産性向上とコスト削減は人事領域のビジネスです。コストを下げることで生まれた資金を製品価格に反映したり、マーケティング費として活用することができます。それによって、ビジネス戦略の目標を達成することができるのです。だから、人事はあらゆる角度から生産性向上とコスト削減を行う必要があるのです。

もちろん、これは人事だけで達成できるものではありません。生産、財務などさまざまな部門と連携する必要があります。事業分野にも洗剤やベビーケア用品など商品別にさまざまな部門があり、それぞれにいろいろな営業のプログラムがありました。それらを一本化したら、年間80万ドルを削減できたという例もあります。会社のあらゆる部門をよく見渡し、各分野と協力すれば、実にさまざまなコストの削減が可能なのです。

 

>>「経営を変える、攻めの人事へ」――【第8回】戦略的能力の育成

 

【著者プロフィール】

元P&G米国本社 組織変革・HR担当ヴァイスプレジデント/AIDA LLC代表

会田秀和氏

写真_会田氏

ブリガム・ヤング大学マリオット・スクール・オブ・ビジネスで組織行動学修士を取得後、オハイオ州シンシナティ市にあるP&G本社に入社。同社において、人事および組織デザインの社内プロフェッショナルとして、P&Gフィリピンの改革、P&GジャパンとP&Gコリアのグローバル化、P&Gグレーターチャイナの改革などを手がける。現在、AIDA LLC(Aida Consulting LLC)代表として経営戦略、組織デザイン、戦略的人材マネジメントに関するコンサルティングを行っている。他にアストラゼネカ株式会社の社外取締役、ビジネス・ブレークスルー大学大学院客員教授(組織行動学)も務める。著書に『P&G流 世界のどこでも通用する人材の条件』がある。

 

初出『経営を変える、攻めの人事へ』(HR総研) 編集:HRレビュー編集部

 

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