元米国P&G会田秀和氏が語る「経営を変える、攻めの人事へ」―戦略的能力の育成
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元P&G(ザ・プロクター・アンド・ギャンブル・カンパニー)米国本社の組織変革・HR担当ヴァイスプレジデント、会田秀和氏による「経営を変える、攻めの人事へ」と題した本連載(全14回)。第8回は「戦略的能力の育成」というテーマでお送りします。

>>「経営を変える、攻めの人事へ」連載記事一覧はこちら

戦略的能力の育成

P&Gジャパンで戦略的能力を育成するにあたり、私はまず部門別の専門能力の育成を重視しました。P&Gの戦略は簡単にいうとイノベーションです。イノベーションを起こし続けているからこそP&Gは生きていきます。そのためには専門能力が欠かせません。専門性のないところにイノベーションは起こりませんし、大きな成果も生み出せないからです。

たらい回しの人事異動による弊害

育成方法も見直しました。それまでの人事がやってきたようなたらい回し的な人事異動による「総合職」の育成では、イノベーションは起こりません。日本でイノベーションが生まれてきているのは生産や開発の現場であり、それは生産や開発部門で働く技術者の専門性が高いからです。

しかし、せっかく技術者がいろいろなイノベーションを生み出しても、それを商品化・商業化する力が日本の企業には不足しています。日本の競争力が落ちているのはそのためです。だから日本企業は、生産や開発の現場だけではなく、人事や財務、IT、マーケティングでもイノベーションを起こす必要があります。

人事がすべきは、世界と戦える専門家を各部門で育てること

あらゆる部門でイノベーションを起こすには、専門性を高めて「匠(たくみ)の技」を持つ人材を育成する必要があります。技術を習熟した匠の技からイノベーションは生まれてきます。たとえば、セールスの人間が人事に異動してきて3~4年間人事をやるといった、たらい回しの人事異動から新しい考え方が生まれるはずがありません。

日本企業が生きていくうえで、組織のいろいろなところにイノベーションを起こす必要があると述べましたが、それはつまり、バリューチェーン全体でのイノベーション(Total Value Chain Innovation)が必要だということです。そのためには、人事制度から見直す必要があり、人事の役割が変わるということでもあります。

人事が全社、全国の人員配置表を見渡しながら、「この人はこの部署を何年経験したから、今度はこっちに持ってこよう」といった感覚で人事異動を行っているとしたら、それは陳腐化した人事です。そこからは卓越した専門性は育ちません。そういう安易な考えから抜け出し、世界と戦える専門家を育てなければ日本企業の未来はありません。

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P&Gに欠けていた3つの戦略的能力

P&Gジャパンでは戦略的能力の育成にあたって、特に欠けている戦略的能力は何かを検討しました。そこで明らかになったのは、デザインマーケティング、そして「Go to Market」 という3つの戦略的な能力を伸ばしていかない限り、イノベーションは実現できないということでした。

特にP&Gに欠けていたのはデザイン力です。P&Gの人材は内部育成が主体で、中途採用はあまり行いませんが、この「デザイン力のある人材」は「デザイン力のない内部」で育てることはできないので、中途採用で世界中から獲得しました。

また、マーケティングもイノベーションにとって極めて重要です。たとえばP&Gグループであるマックスファクターの化粧品「SK-II」シリーズは、一点が1万円以上する商品でもよく売れています。それは商品が優れているだけでなく、桃井かおり、小雪、綾瀬はるかを起用した宣伝などマーケティングによるところが大きいです。

イノベーションとマーケティングは重要な関わりがあります。だからP&Gが勝つためには、われわれが得意だと自負していたマーケティング力を駆使していこうと考えていました。ところが、日本とアメリカ、ヨーロッパのマーケティング力を比べてみると、日本は非常に見劣りすることがわかりました。そこでマーケティング力の育成に力を注いだのです。

戦略的能力の定義・育成なくしてビジネスは成り立たない

日本の企業ではこうした戦略的能力をどれだけしっかり定義しているでしょうか? それらを育成することにどれだけ力を注いでいるでしょうか? この戦略的能力の定義・育成をないがしろにしていたら、ビジネスで勝つことはできません。

>>「経営を変える、攻めの人事へ」――【第9回】人材育成を強化する縦軸と横軸

 

【著者プロフィール】

元P&G米国本社 組織変革・HR担当ヴァイスプレジデント/AIDA LLC代表

会田秀和氏

写真_会田氏

ブリガム・ヤング大学マリオット・スクール・オブ・ビジネスで組織行動学修士を取得後、オハイオ州シンシナティ市にあるP&G本社に入社。同社において、人事および組織デザインの社内プロフェッショナルとして、P&Gフィリピンの改革、P&GジャパンとP&Gコリアのグローバル化、P&Gグレーターチャイナの改革などを手がける。現在、AIDA LLC(Aida Consulting LLC)代表として経営戦略、組織デザイン、戦略的人材マネジメントに関するコンサルティングを行っている。他にアストラゼネカ株式会社の社外取締役、ビジネス・ブレークスルー大学大学院客員教授(組織行動学)も務める。著書に『P&G流 世界のどこでも通用する人材の条件』がある。

 

初出『経営を変える、攻めの人事へ』(HR総研) 編集:HRレビュー編集部

 

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