中途採用における定着と活躍(オンボーディング)とは 前編 ―基本的な考え方―
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■はじめに

これまでほとんど中途採用を行ってこなかったという企業であっても、積極的に中途採用を実施するケースが増えてきています。この背景としては、2017年10月発表の日銀短観(日本銀行, 2017)で人手不足を示す指標がバブル期を超えたことからもわかる、深刻化する人手不足が挙げられます。また、AI技術者やデータサイエンティストといった職業に象徴される高度技術者の奪い合い、そしてその根底にある産業構造の転換もあります。ビジネス環境がめまぐるしく変化していくなかで、2025年には583万人の人出が足りなくなるという「労働市場の未来推計」(パーソル総合研究所, 2016)の予測にもあるように、人材不足は今後さらに悪化する傾向が強まっていくと予想されています。

一方、中途入社者として採用しても、うまく活躍できずにすぐ退社してしまう例も少なくありません。今回の表題にあるような定着と活躍に関して、入社時研修は行っているものの、体系的にプログラムを整えている企業はそこまで多くないというのが筆者の実感です。それには、中途入社者は即戦力として採用されたのだからすぐに結果を出してくれるだろうと考える企業が多いことや、中途入社者の数がそもそも少ないので人的・金銭的コストを割いて支援を提供するほどではないと考えられがちであることなど、さまざまな理由が考えられます。多額のコストをかけて採用した中途入社者が活躍できるかどうかは、人材不足に悩む企業にとって死活問題です。にもかかわらず、人材の獲得ばかりに目を向け、その後のフォローができず、結果的に中途入社者がうまく活躍できない、あるいは退社してしまい、社内から「中途入社者はだめだ」といった声が聞こえるということであれば、今後、さらなる人材獲得競争の激化が予測されるなかで、出遅れてしまう大きな原因になりかねません。

海外では採用における定着と活躍を「On-boarding(オンボーディング)」と呼び、新入社員が定着そして活躍するために、体系的なプログラムを構築しています。今回は「中途入社者の定着と活躍のためにどのようなことを行うべきか」の前に認識しておきたい、定着と活躍の基本的な考え方について解説します。


■日本における定着と活躍に関する問題

実際、中途入社者に関して「即戦力として採用したのはいいが、会社になじめず半年未満で退社してしまった」「常に『前の会社では~』と口にして、仕事のやり方を変えようとしない」といったことを経験した方は多いのではないでしょうか。

「中途採用者の適応に関する実態調査報告」(荒井理江, 2015)によれば、適応が難しかったこととして仕事内容や職場の雰囲気、上司・同僚・部下との人間関係など、さまざまな問題が一定数発生していることがわかります(図表1)。また「マネジメント職の採用と活躍支援」(HITO総合研究所, 2016)では、「直属の上司のサポート」「社内関係者とのつながりを強めるサポート」「職場コミュニケーション」「新しい職場・仕事への適応」「期待役割の把握」の5つが転職成功実感の有無に影響するとしています。これらは中途入社者個人の能力や努力だけで乗り越えられるものではありません。したがって、有能な人材を採用することで終わりではなく、採用した人材をより活躍させるためには入社時・入社後の支援が必要であることを示しているといっていいでしょう。


■定着と活躍の基本的な考え

日本企業において、30日(あるいは3週間)、3カ月、6カ月を区切りとして、新しく職場に加入した人が定着できているかどうかを俗説的に測ることがあります。実際に海外においても「研究や社会通念両方で示唆されているのは、新しい仕事に就いて90日でその仕事の成否が分かる」(Talya, 2010)ということと指摘されており、初期の立ち上がりのための期間は、合致しているところがあります。したがって、年単位の長期的スパンではなく、最初が肝心であるといえそうです。

では、具体的にどのようなスタートを切ることができればよいのでしょうか。そして、どのような要素があれば定着と活躍に成功するのでしょうか。
この点について、入社後に必要な適応に関するモデルをご紹介します(図表2)。


▶セルフエフィカシー

成功した定着と活躍には、採用時の選定に加えて、「セルフエフィカシー」「明確化した役割」「社会化」「組織文化の理解」への適応が求められます。それぞれの項目について解説します。
心理学用語で「自己効力感」といい、ある目標を達成する能力があるという認知(成田ら, 1995)を意味します。つまり「自分が組織の役に立っているという実感」と言い換えてもよいでしょう。自己効力感を上げるためには、転職後の小さな成功体験の積み重ねが有効になります。

▶明確化した役割

自分自身がどのような仕事をし、どのような役割を果たすかについて正しく理解することです。それは何によって評価されるかを理解するという意味でもあります。前述の「マネジメント職の採用と活躍支援」(HITO総合研究所, 2016)の調査結果でも、期待される役割が明確になり、把握できていることがその後の活躍に影響を与えているという結果が出ています。

▶社会化

会社やチームなどの一員になることを示しています。その会社に入社したからといって、直ちに会社やチームから認められるわけではありません。さまざまな人々と関わり、そのなかで暗黙の了解を含んだルールや非公式的な役割などを学ぶことによって、会社の一員であると周囲からみなされます。このプロセスを社会化といいます。

▶組織文化の理解

会社やチームには、ルール以外にも求められる価値観や行動スタイルなどがあり、それらは組織の風土や文化につながっています。また、それはリーダーやメンバーによって影響されることもあるため、会社単位、チーム単位で異なるものです。新入社員に限った話ではないですが、組織が変われば適応していく必要が出てきます。

これらの項目に適応していくことは、次のような効果を得ることができ、定着と活躍の成功につながります。

●高い職務満足度

●組織コミットメント(会社への愛着や貢献心)

●低い離職率

●高いパフォーマンス

●効果的なキャリア構築

●低いストレス

また、中途入社者が乗り越えるべき本人の学習課題として、次の4つがあるといわれています(中原, 2012)。

● 「人脈学習課題」
業務を円滑に進めるために必要な組織内の人脈を獲得すること

● 「学習棄却課題」
以前の組織で学んだ知識やスキル、経験を必要に応じてアンラーン(学習棄却)すること

● 「評価基準・役割学習課題」
新しい職場で何を期待されているのか、何をすれば評価されるのかなどを自らリサーチすること

● 「スキル課題」
新しい組織で業務に必要な知識やスキルを身につけること

これらの課題は、以前よりは活発になっているとはいえ雇用の流動性がまだ低い日本においては、企業側もしっかり認識したうえでサポートしていく必要があるものだといえるでしょう。
 

後編では、採用が決定してから行うべき具体的な施策について解説します。



■参考資料

荒井 理江(2015), 「中途採用者の適応に関する実態調査報告」, RMS Message vol.39, 2015.08, リクルートマネジメントソリューションズ
成田 健一, 下仲 順子, 中里 克治, 河合 千恵子, 佐藤 眞一, 長田 由紀子(1995), 「特性的自己効力感尺度の検討 生涯発達的利用の可能性を探る」, Japanese Journal of Educational Psychology,  43(3), pp306-314
中原 淳(2012), 「経営学習論:人材育成を科学する」, 東京大学出版会
日本銀行(2017), 「短観(要旨) 2017年9月」,

http://www.boj.or.jp/statistics/tk/yoshi/tk1709.htm/(取得日:2017/10/5)
パーソル総合研究所(2016),「労働市場の未来推計」, https://rc.persol-group.co.jp/roudou2025/(取得日:2017/10/5)
HITO総合研究所(2016), 「マネジメント職の採用と活躍支援」, 機関紙HITO 2016.04 vol.9, HITO総合研究所
Talya N. Bauer. (2010), “Onboarding New Employees: Maximizing Success”, SHRM Foundation’s Effective Practice Guidelines Series, SHRM Foundation

 

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