中途採用における定着と活躍 (オンボーディング)とは 後編  ―フェーズごとの施策―
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前編では、オンボーディングの全体像について解説しました。後編では、それぞれのフェーズにおいてどのような施策が考えられるかについて述べていきます。

目次

 


具体的な施策の検討に入る前に、中途入社者が定着・活躍するための全体計画を立てることがポイントです。特に現場配属後は、各現場で行われていることが見えない場合がありますので、誰がどのような支援を行うのか整理し、俯瞰(ふかん)できる状態にしておくことが重要です。

 

 

入社前については、フォローの手法として、定期的な連絡だけでなく、会社の一員としての予行演習や知識獲得が必要となってきます。この観点では二つの考え方があります。一つはRJP(Realistic Job Previews:現実的な仕事情報の事前開示)であり、もう一つは、役割や成果の明確化です。


RJPは、組織や仕事について、悪い情報も含めて誠実に候補者に伝えることを指し、中途入社者の定着促進などの効果が確認されています(堀田,2007)。RJPは、選考中から面接時に組織や業務の実態を伝えるだけでなく、実際の現場で実務ができるかといったテストを実施することもあります。入社までに期間が空くのであれば、事前に職場の仲間との面談や食事、あるいは就業体験を設定することも有効でしょう。

実際にRJPの効果として、RJPを行っているグループは行わなかったグループに比べて、離職率が50%少なかったという結果が出ています(Suszko & Breaugh, 1986)。その後もさまざまな研究が行われ、この領域に関してはある程度一貫した結果が得られています(服部ら,2014)。このように中途入社者のギャップをあらかじめ減らしておくという施策は、離職率やその後の活躍に影響すると考えられます。

また、仕事上どのような役割を担い、その期待は何かを採用時に候補者へ伝えておくことも重要です。「マネジメント職の採用と活躍支援」(インテリジェンスHITO総合研究所,2016)によれば、採用時に企業側から「募集の背景・目的」について説明をしたか否かによって、その後の転職成功実感に影響があることが分かっています(図1)。

(図1)転職する際、企業側から「募集の背景・目的」について説明がありましたか

「即戦力採用」であるならば、担う役割と責任が明確ですが、「ポテンシャル採用」では、どのような役割を担うかは採用決定後に決められることがあるため、実際には「募集の背景・目的」の説明がしづらい場合もあります。しかし、ポテンシャル採用であったとしても「募集の背景・目的」の説明をしっかり行うことが入社後の活躍につながることから、自分がこれから行う仕事、そして成功イメージは入社前に作ることが大切になります。

このほかにも入社に必要な書類を提出してもらうといった入社手続きの対応や、定期的な連絡を行うといった丁寧なフォローも必要となるでしょう。

 

 

 

入社時研修はどのように設計されているでしょうか。もちろん、入社において必要なことを組み入れていると思いますが、次の観点で内容を見直してみましょう。

・中途入社者の「定着」にとって重要な内容か
・入社直後に受講すべき内容か
(入社3カ月後や半年後に受講した方が適切である可能性はないか)
・仕事への意欲が高まっている状態をさらに高める内容か

研修の内容は、提供側が重要だと思っても、中途入社者にとってはそう感じてもらえない場合があります。また、単に義務的に受講させるということであれば、入社者の意欲を下げかねません。研修の設計にあたっては、入社直後の段階でつまずきやすいポイントはどのようなことがあるかについても把握し、トレーニングプログラムを取り入れてもよいでしょう。

また、会社としても歓迎しているという状況を作ることや、複数名の中途入社者がいるのであれば「同期」の関係を構築する支援を行うことも検討する必要があります。「いい会社だな」と思えるような歓迎の姿勢や雰囲気を会社のイメージ・風土にしていくことが大切です。中途入社者が感動し、その気持ちをSNSでシェアすれば、採用ブランディングの形成にもつながります。

 

 

 

配属された現場でも、あらためてオリエンテーションや歓迎をしましょう。第一印象が大切です。歓迎ランチの予定を事前に組むなど、現場全体で入社者を温かく迎えるといったことも好印象を与えます。このような習慣は、中途入社者を歓迎する文化の醸成にもつながります。

また、中途入社者は、電話やコピー機の使い方、会議室の使用ルールなど、ささいなことも前職とは異なるため、分からないことだらけです。中途入社者を対象に、入社時に困ったことについて尋ね、どのようにすればスムーズにスタートできるかを考えておく必要があります。その内容をもとに、受け入れ時に何を準備し伝えるかについて、リスト化しておくとよいでしょう。

ただし、そのリストをマニュアル化し、中途入社者に「自分で読んでおくように」とさせるのは、放っておかれた状態を感じさせてしまうため、好ましくありません。口頭で説明することによって、中途入社者の不安を解消し、「困ったときに誰に相談したらよいか」職場の人間関係を感じ取ってもらうことが重要です。

 

 

 

上司との定期的な面談とあわせて、人事や社内のキャリアコンサルタントによる定期的な面談も大切です。早い段階でその職場に定着できているかいないかを確認します。具体的には「自分の力を引き出せているか(引き出せそうか)」「困っていることはないか」などの質問を通じて、その人の状況を把握します。転職後に、つい「前職では」という口癖が出てしまう人を隠語で「出羽守(でわのかみ)」と呼びます。このような人は、組織になじめていない可能性があります。組織で大きな問題になる前に、本人が気づくきっかけを提供することも必要です。

もし定着していない人がいるとしたら、その内容や原因を確認したうえで、解決に向けたフォローが必要です。また、定期的に面談ができない場合は、オンラインアンケートなどのツールを活用し、簡単に聞き取りをするのも一つの手段でしょう。

 

 

 

オンボーディングに関しては、あらゆるフェーズで実施しなくてはならないことがこまごまと発生します。これらの負担を少しでも減らす取り組みが、テクノロジーの活用です。

人材の流動性が高いアメリカに比べて、日本の企業の多くは新卒一括採用、年功序列であったため、オンボーディングの段階のバリエーションが限られており、結果、HR領域におけるテクノロジーの普及は遅れていました。しかし、その日本でも今、これまでのような人事担当者の記憶や経験則に基づく管理では対応しきれないほど人材の流動化が進んでおり、HR領域のテクノロジー導入に注目が集まっています。

日本において、オンボーディングの段階で利用されている有名なサービスは「SmartHR」です。このサービスは、入社の手続きをWebサイトで行うことができるため、間違いによる手戻りを削減できます。2015年11月にサービスの提供を開始し、2018年2月には導入企業1万社を超えました。また、海外ではさらにVR(バーチャルリアリティー:仮想現実)を使ったオリエンテーションの取り組みも実施されており、テクノロジーを活用した取り組みはこれからも出てくると推測されます。

中途入社者が受け入れられやすい職場を作るということは、早期退職の防止だけでなく、活躍の幅の拡大やスピードの向上にもつながります。前編・後編にわたってご紹介した受け入れプログラムをしっかりと構築していくことが、今後必要となっていくでしょう。

 


■参考資料
インテリジェンスHITO総合研究所(2016),機関紙HITO vol.9「マネジメント職の採用と活躍支援」2016.04,インテリジェンスHITO総合研究所
Suszko, M. K., & Breaugh, J. A. (1986). The Effects of Realistic Job Previews on Applicant Self-Selection and Employee Turnover, Satisfaction, and Coping Ability. Journal of Management, 12, 513-523.
Inc.com(2010),” How to Build an Onboarding Plan for a New Hire”, “https://www.inc.com/guides/2010/04/building-an-onboarding-plan.html”(取得日:2017/12/26)
服部泰宏,堀上明,矢寺顕行(2014),「採用研究の俯瞰と展望:我々は何を論じ,何を明らかにし,何を見てこなかったのか」,経営行動科学学会年次大会:発表論文集,経営行動科学学会年次大会準備委員会


 

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