究極のダイバーシティとは 花田光世慶應義塾大学名誉教授が語る
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2015年9月、経営者・人事担当者向けセミナー「組織を強くするダイバーシティ・マネジメントとは」が開催されました(「日本の人事部」×ビズリーチ共催)。基調講演では、企業組織・キャリア問題研究の第一人者である花田光世氏にご登壇いただき、日本企業が今後真剣に考えなくてはならない「ダイバーシティ」のあり方についてお話しいただきました。今回は、未来の組織づくりに役立つ学びの多い本講演のエッセンスを再構成してお伝えします。

目指すべき究極のダイバーシティとは

安倍政権が打ち出した「2020年までに女性管理職比率を30%に引き上げる」という目標により、ダイバーシティは多くの企業の関心事となりました。本日の来場者も、女性管理職比率引き上げに興味を持つ方が多いと思いますが、あえて本講演では、2020年以降の未来を見据えて、日本企業が目指すべき究極のダイバーシティとは何かをお話ししたいと思います。


マイノリティーが生き生きと働ける組織づくりが必要

女性管理職比率の30%目標に向けて多くの企業が苦労していますが、その苦労の反動が2020年以降に出るはずです。たとえば、年齢による差別。年金の需給バランスを考えたとき、2035年ごろには72歳まで、2050年ごろには75歳まで働く社会が訪れるでしょう。こうした未来を予測してダイバーシティの取り組みを見直すとき、女性の登用だけでなく「多くのマイノリティーが生き生きと働ける組織づくり」について考えることが必要になります。


究極のダイバーシティは、一人一人の個に寄り添うこと

その根拠の一つとなるのが、2016年4月に施行される改正職業能力開発促進法です。簡単にいうと、「労働者は自律的に自分の職業能力を開発しキャリア設計を行うこと。そして、企業にそのための支援を行うことを義務付ける」という法律です。

この法律が指し示すのは、これからのダイバーシティを考えるとき、「個人がどのように生きるか(仕事をするか)を一人一人個別に考えることが重要」ということです。ダイバーシティは、女性など特定の属性のグルーピングをベースに考えるのではなく、多くのマイノリティーについて考える必要があって、究極的には一人一人の個というマイノリティーに寄り添うことが本質なのです。75歳まで働く社会を想定し、いくつになっても自分らしく、つまり究極のダイバーシティのなかで自分も組織も生き生きとしていることを考えないと、ダイバーシティは一歩も進まない、私はそう考えています。

生き生きと働くとはどんなことか

「生き生きと」働くというのは、抽象的でわかりづらい部分があると思います。ここからは、「生き生きと」働くとはどういうことなのかをお話しします。

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当事者意識を持てば生き生きと働ける

私のキャリア研究の結果からいえるのは、「生き生きと」働くとは、当事者意識を持ち、どんな局面でも自分の力を発揮できる働き方です。そのためにはモチベーション開発が重要になります。

モチベーションを向上させる手段として、「モチベーション管理」と「モチベーション開発」という2つの考え方があります。モチベーション管理とは、職務満足度を向上させるために企業が実施する施策のことです。従来の人事の対応はモチベーション管理でした。しかし、これからの時代に必要なのは、自身によるモチベーションの開発です。嫌な仕事や困難な仕事でも、押し付けられたと捉えるのではなく、自分の意思で自分らしく実践していく。このポジティブアプローチがモチベーション開発では重要になります。

モチベーション開発の手法

とはいえ「従業員一人一人にモチベーション開発を促し、仕事を欲してもらう方法なんてわからない」というのが多くの方の本音だと思いますので、その手法についてお話しします。

「モチベーションを下げること」とは反対のことを行う

私のおすすめは「働くモチベーションを下げる方法」から考えることです。たとえば「仕事の領域を小さくする」「担当している仕事の意味をなくす」「興味のない仕事につかせる」などがあります。モチベーション開発では、日常業務のなかで、こうした事例と正反対のことを行えばよいのです。仕事の領域を広げてスキル拡大のチャンスを与えたり、仕事の重要性を深く理解させたり。一つ一つの状況に対して、自分だったらどうしたらモチベーションが上がるかを考えてアプローチを工夫することが重要です。

キャリア検診を行う

キャリア検診も有効です。キャリア検診とは、自分で設定した職業生活の目標、必要な能力開発に対して、どういうプロセスで進行しているかセルフチェックを行うこと。ここで重要なのは、自分らしさを発揮するためのキャリアデザインもあわせて行っておくことです。

キャリアデザインでは、たとえば「チャレンジし続ける自分」という具合に、自分らしさとは具体的にどんなものかを設定し、それを生かしたキャリアビジョン(長期見通し:5年)、ビジョン達成に向けたキャリアゴール(中期目標:3年)、キャリア目標(短期目標:1年)、アクションプラン(具体的な行動計画)を考えます。

何が起きても対応できる力を磨いておく

自分らしいキャリアデザインをしても、世の中は予定通りにいかないというのが常ですから、何が起きても対応できる力を磨いておくことがポイントです。これを「Planned Happenstance(計画された偶発性)」と呼んでいます。どんな状況でも自分らしさを発揮できることが重要です。

自分でモチベーションを開発し、自分でキャリアを描き、どんな局面においてもその実現に向けて自走していける。このエコサイクルが回っている状態を「生き生きと」働くというのだと思います。

あらためて、ダイバーシティとは何か

ここまでの説明を踏まえて、もう一度ダイバーシティを考えてみてください。おそらく皆さんがこれまで考えていたダイバーシティとは違う視点があると思います。

ダイバーシティとはキャリア自律である

強調したいのは、「ダイバーシティとはキャリア自律である」ということです。一人一人の個に寄り添って成長を支援するという、キャリア自律を促進する企業の取り組みは、ダイバーシティの開発につながります。個人のキャリア自律を通して、組織にダイバーシティ開発の風土が生まれてくるのです。

「ダイバーシティ推進」と「ダイバーシティ開発」の違い

「ダイバーシティ推進」と「ダイバーシティ開発」は意味が異なります。私の定義では、ダイバーシティ推進は組織が定めたダイバーシティという目標を達成する一連の運動で、企業視点のものです。一方、ダイバーシティ開発は一人一人の個の成長実感やチャンスの拡大をベースとし、相互啓発、相互支援、相互成長を行いながら組織の活性化に貢献していく活動で、個人視点のものになります。

さらにダイバーシティ開発は、個人個人の立場を尊重しあった共生型インクルージョンから、違いを持つ他者や他者の生き方から学び、相互支援を行いながら相互成長するインテグレーションへと進化します。ダイバーシティは推進から開発、インクルージョンからインテグレーションという流れで捉えています。

単に認め合うことから、お互いが啓発し合い、成長する段階へ

本格的なダイバーシティはインクルージョンから始まると思っていますが、それはインテグレーションに向かっての第一歩だと考えています。私は、多様な個が切磋琢磨し、ぶつかり合ってもお互いが学び合い、成長していけるダイバーシティ&インテグレーションを目指すことで、組織が活性化するという立場を取っています。

女性管理職比率の30%目標はもちろん大事ですが、それと同時に、2020年以降に多様な個がキャリア自律を志向しながら、元気に「生き生きと」働くありさまをビジョンとして持つことが、ダイバーシティの本質なのです。

まとめ

「みんなちがって、みんないい」。童謡詩人、金子みすゞが表現したように、人が一人一人持っている個性は究極の多様性といえます。そこに焦点を当て、「究極のダイバーシティとは一人一人の個に寄り添うことである」と唱えた花田名誉教授。個人が生き生きと働けるよう、一人一人のキャリア自律を企業が支援することで、組織が活性化し、強い組織になっていく。花田名誉教授の示したダイバーシティの未来形は、多くの企業にとって、これからの組織づくりの指針となることでしょう。

プロフィール:花田光世 氏

花田先生

1948年生まれ。慶應義塾大学名誉教授、慶應義塾大学SFC研究所キャリア・リソース・ラボラトリ代表。経済産業省・厚生労働省の各種委員会や学会活動、民間企業の社外取締役などにも従事し、企業組織やキャリア問題研究の第一人者として活躍している。著書に『「働く居場所」の作り方』(日本経済新聞出版社)などがある。

 編集:高梨茂(HRレビュー編集部)
※講演内容をもとに、HRレビュー編集部で再構成しました

 

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