タレント・アクイジションとは何か(中編) | 人材獲得競争を生き抜くための新潮流
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本シリーズでは、人材獲得競争の激化が叫ばれるなか、外資系企業を中心にその役割・組織を見かける機会が増えてきている「タレント・アクイジション(Talent Acquisition:タレント人材獲得)」について、海外の文献や事例をもとに、そもそもタレント・アクイジションとは何か、またこれからの採用組織のあり方や、担うべき役割についてご紹介しています。

2回目となる今回は、前編でご紹介したRobin (2012)によるタレント・アクイジションの6つの特徴をもとに、タレント・アクイジションがこれまでの採用とどう違うのかを、より深く解説します。

タレント・アクイジションの6つの特徴

タレント・アクイジションには、今までの採用(リクルートメント)に加えて次の6つの特徴があることを前回ご紹介しました。

  1. タレント人材獲得のための計画および戦略策定(Talent Acquisition Planning & Strategy ) 
  2. 必要なタレント人材の要件把握と組織体制・配置の把握(Workforce Segmentation )
  3. 採用ブランディング(Employment Branding)
  4. 必要な候補者の定義(Candidate Audiences) 
  5. 候補者との関係構築(Candidate Relationship Management) 
  6. 採用改善のための指標の形成と分析(Metrics & Analytics)

​早速、1項目ごとに具体的なポイントを解説していきたいと思います。

1.タレント人材獲得のための計画および戦略策定

人材像の設計や採用戦略への反映はこれまでも行われていましたが、タレント・アクイジションがこれまでの採用と異なるのは、次の2つが必要となる点が挙げられます。

  • 経営戦略・事業戦略および周辺領域を徹底的に理解する
  • より広範となる採用活動領域の中で、何に・どこまで取り組むかを定める

経営戦略・事業戦略に基づくということは、徹底的な戦略の理解と一貫性を持った人事戦略の構築が必要です。ビジネスモデルに寄与するのはどんな人物か、新規事業であればどのような人材が鍵となるか、そして、そうした人材を獲得するにはどのような戦略を採るかを考慮する必要があるでしょう。加えて、要員計画から一歩踏み込み、人材に関する予算策定、管理に関わることもあるでしょう。これらを行うことで、経営から採用で一貫性を持った戦略が構築されることになります。さらに、自社に関係する周辺領域を理解し、自社のポジショニング、競合の取り組み、新興企業はどのように割り込んでくるのかなどをふまえ、勝ち抜くために何をすべきかを考える必要があります。

また、タレント・アクイジションは、従来の採用より、より広範な採用活動領域を指します。豊富な人員があれば可能かもしれませんが、多くの企業はその領域すべてをカバーすることができません。人事・採用内で取り組むべきことは何か、社内の関係者や社外パートナーはいるのか、またどこまで取り組むのかなどを定める必要があります。

2.必要なタレント人材の要件把握と組織体制・配置の把握

今までの採用では、要員計画や採用予算をもとに人数をどれだけ集めればいいか、空いたポジションを埋める人材をどのように集めるかを考えていましたが、タレント・アクイジションにおいては、次の2点も必要となります。

  • 組織図を理解し、人事戦略上どのような姿が必要かを見据える
  • 現場リーダーとタレント人材の要件を綿密にすり合わせする

タレント・アクイジションでは、どのような意図をもって組織を構築していくか、あるいは構築してきたか、人員を配置するかを理解し、さらにどのようなタレント人材が必要であるかを把握した上で提案を行います。その際に重要なのは、経営戦略・事業戦略の視点から、どのような組織デザインが最も良いか、誰を配置するべきか、イメージを持つことです。イメージを持つことで初めて提案ができます。また、現場の事業リーダーなどは人材領域のプロフェッショナルではないことから、獲得したい人材のスペックが高くなりすぎ、市場で獲得できなかったり、給与が高すぎたりといったことが発生しかねません。したがって、要件定義を行う上でも、業務の深い知識だけでなく、周辺領域や労働市場の理解も必要になります。

3.採用ブランディング

採用ブランディングも、これまで実施してきた内容と思われがちではありますが、次の観点を加える必要があります。

  • SNSや企業評価サイト、SEOなど、Webマーケティングと同じようなブランド構築を実施する
  • 従業員満足度や従業員の定着にも関与する

この分野が重要になった理由をご説明するため、現在欧米で起きていることをご紹介します。それは「LinkedIn」(ビジネス版SNS)と「Glassdoor」(企業評価サイト)の存在です。「LinkedIn」には登録者の職務経歴書が掲載されているため、有能な人材(タレント人材)に簡単にアプローチできます。また求職者側には、すぐに応募できる手軽さがあります。「Glassdoor」は、働く上での企業の評価が在籍者・退職者から投稿されており、企業はその評価の良しあしに大きな影響を受けることになりました。これらは求職者にとって非常に大きな武器となり、売り手の力がさらに大きくなっています。したがって、採用ブランディングでは、既存の採用広報とあわせて、さまざまなソーシャルメディア、Webメディアを活用したり、SEO対策といったWebマーケティングも含めた対応を実施したりしています。

また、従業員満足度を上げ、退社の際も満足して退社できるような内的マーケティングも重要になってきています。もちろんこれまでも従業員満足度向上の責任を有していた組織開発担当などと連携する必要はありますが、採用を終えたらあとは関与しないといったことは、中長期の採用力を落とすことになるでしょう。

4.必要な候補者の定義

必要なタレント人材を定義したあとは、その母集団をどのように形成すればいいかを決める必要があります。つまり、欲しいタレント人材を定義することで、アプローチにはどのようなツール(採用媒体や人材データベースなど)、パートナーを活用すればいいか、どこに対象となる人が多そうかなど、狙いを定めることができます。ただし、定義を詳細にすればするほど、当然ながら母集団が小さくなる、あるいは小さな母集団が多数形成される可能性があります。そうなると採用難度は上がるため、どこまで詳細に定義するかについてはバランスが求められます。なお、候補者の発掘自体はソーサーと呼ばれる担当者が行います。上記をふまえ、ポイントとなるのは次の2点です。

  • タレント人材の定義にしたがい、タレント人材の多いところに狙いを定め、手法を選択する
  • 適切な母集団を形成できるか、タレント人材の定義においてバランスを考える

5.候補者との関係構築

候補者との関係構築には、利点が2つあります。

  • 関係構築を行うことで、適切な人材を採用でき、さらに入社まで高いモチベーションを保てる
  • 辞退者やハイスペックすぎる候補者と関係維持し、将来の採用につなげる

面談の日程を迅速に調整したり、ビデオ面談を実施することで、候補者に柔軟な機会を提供することができます。また、面談のスピードを上げれば関係性は緊密になっていきます。近年はITツールの発展により、これらがわかりやすく、実施しやすい状況になっています。辞退されたがやはり入社してほしいという候補者や、現状ではハイスペックすぎるという候補者と良好な関係を継続することで、タレントプール(候補者のデータベース化と関係の継続)も構築できます。

6.採用改善のための指標の形成と分析

戦略や採用の各プロセスにおいて根拠となる指標を、データをもとに構築し、生かす必要があります。例えば面接の通過率があまりにも低い場合は、面接官の質に問題があったか、前のプロセスでの合格率が高すぎたか、もしくは流入経路が偏りすぎていたかなど、採用の過程においてさまざまな要因が考えられます。最終的な目標は人材の獲得数ですが、そこにたどり着くために、プロセスの状況を確認する指標を作成し、常に確認する必要があるのです。

また、採用に関してはデータ分析がされないまま、戦略・戦術が作成されてきました。根拠となるデータを保有していながら着手していない企業も多くありますが、データをもとに正しい戦略・戦術を採ることが必要です。

  • 結果と各プロセスの状況を確認する指標を作成する
  • 採用に関わる既存のデータを分析し、自社の採用の勝ちパターンを探る

定着・活躍支援とアウトソーシングやツールの利用

日本の採用であまり対応されていないのが、定着と活躍の支援(on boarding)です。採用が決定したあとの定着、そして活躍して初めて、採用が価値あるものとなります。

定着と活躍の支援では、早期にパフォーマンスを上げるため、また本人のモチベーションを高い状態に保つため、採用後にリクルーティングチームや現場人事、マネージャーと連携して、スキル・知識を習得したり会社のビジョン・文化・価値観を理解したりする研修、定期的な面談などを実施します。誤ってはいけないのは、定着と活躍の支援は入社日から始まるのではないということです。採用が決定してから、すでに始まっているといっていいでしょう。

そして、非常に多岐にわたる役割が存在するなかで必要となってくるのが、採用活動全体の効率化です。そのため、最近はITやアウトソーシングの活用が課題となっています。採用全般におけるコミュニケーション、手続きなど、ITやアウトソーシングを利用することで効率化を進めます。

テクノロジーについては、例えば、リクルートワークス研究所「HR Technology 世界の人事が注目する28の『HRテクノロジー』」にあるように、さまざまなツールが出てきています。日本でもこれらのツールが広がりを見せており、採用活動への貢献が期待されますが、これらのツールを使って業務の効率化を行う企業とそうでない企業で、採用力に差が出てくることも予見されます。


変化に対応するために

新卒一括採用では、「売り手市場」「買い手市場」という言葉で表されるように、需要と供給の関係で捉えられがちでした。しかし、数少ないタレント人材を求めるということは、個人が力を持つことになります。タレント人材を獲得するためには、今までの方法では通用しなくなるでしょう。企業・求職者双方が武器として持つツールは今後増加すると思われますが、十分備えられているでしょうか。また、急激な企業の変化に対応できる採用体制となっているでしょうか。

次回は、これらに対応するために採用担当者はどのように進化すべきなのか、そのキャリアなども含め解説していきます。

 

文:ビズリーチHR研究所 金澤元紀


<参考資料>

Robin Erickson(2012)“Recruitment is NOT Talent Acquisition”, Bersin by Deloitte, http://blog.bersin.com/recruitment-is-not-talent-acquisition/

リクルートワークス研究所(2016)「HR Technology 世界の人事が注目する28の『HRテクノロジー』」リクルートワークス研究所, http://www.works-i.com/column/ttl/


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