強い採用組織はどう創るのか | タレント・アクイジションとは何か(事例編)
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本シリーズでは、人材獲得競争の激化が叫ばれるなか、外資系企業を中心にその役割・組織を見かける機会が増えてきている「タレント・アクイジション(Talent Acquisition:タレント人材獲得)」について、海外の文献や事例をもとに、そもそもタレント・アクイジションとは何か、またこれからの採用組織のあり方や、担うべき役割についてご紹介しています。

これまで前編中編後編では、タレント・アクイジションの変遷や特徴、そしてタレント・アクイジション組織への転換パターン等をご紹介してきました。最終回となる今回は「事例編」として、ラクスル株式会社において創業期からHR責任者としてタレント・アクイジション組織を立ち上げ、経営幹部、経営企画、Webエンジニア等、幅広い採用を実現に導いてきた河合聡一郎氏にそのプロセスや成功の秘訣について語っていただきました。

<プロフィール>
河合聡一郎氏 ラクスル株式会社 ハコベルタスクフォース
2003年、法政大学経営学部を卒業後、印刷機械メーカーに入社。リクルートに転職後は中途採用メディアの営業、およびパートナー企業の育成プロジェクトを担当。その後、株式会社ビズリーチの立ち上げに携わり、外資系IT企業を経て、ラクスルに創業メンバーとして参画。主にダイレクト・リクルーティング/リファーラルを用いた、独自のタレント・アクイジションに取り組む。人事マネージャーとして、組織図の立案/採用設計/実行全般/採用広報/制度立案と組織創りにまつわる実務を幅広く担当。2016年10月より同社の新規事業に従事。別途、複数社のスタートアップの創業、および投資を含めたハンズオンでの社外アドバイザーも兼務。(肩書はインタビュー当時)


創業期のラクスルで、「採用」の大切さを浸透

人材系の企業や外資系IT企業などを経て、私がラクスルに入社したのはまだ創業期でした。当時はまだ中途採用に力を入れているというわけではなく、会社を大きくしていくために、多くのベンチャーと同様まずはインターン採用からスタートしようという段階でした。最初のうちはなんとなくみんなで採用しようという雰囲気がありましたが、会社の方向性を実現するためにどのような組織を創っていくか、どういう順番でどのような人を採用していくか、という議論を徐々にするようになりました。

また、伸びている会社は必ず経営層が採用に積極的に携わっていることや、ビジネスを拡大するために一番レバレッジが効くのはやはり人であることなどを、さまざまな成功・失敗をしている企業へのインタビューから学んでいましたので、経営メンバーとも採用については頻繁に会話をしていましたし、経営メンバー自身もそのアンテナは高かったので、よく議論をしていました。こういったプロセスを経て、経営メンバーにも「採用は最重要の課題である」という意識が高まっていったように思います。

 

採用を事業から考える難しさに直面する

タレント・アクイジションを実践していくなかでは初めて行うことも多く、多くの力が求められることを痛感しました。数々の苦労がありましたが、特に難しいのは会社や事業を立ち上げ、急拡大をしていくなかで、時間軸も織り交ぜながらその事業に最適な組織体制や採用戦略を描いていくことでした。

ベンチマークしていたのは、他社の採用担当の動きよりも、優れたビジネスモデルや成長過程でビジネスがどう変容していくかということ、そしてそれらをどのような組織体で実行しているかということでした。直接企業を訪ね「今の組織課題は何か」「なぜそれが起きているのか」について伺ったこともあります。それらの情報は事業にとっても参考になりますので経営メンバーに提供しました。多くの事例を知るにつれて業界やビジネスモデル、フェーズによってどういった組織を創っているか、そこにはどのような課題があるのかという問題発見のフレームが私の基礎のひとつになりました。ただ単に外で成功しているやり方だけをまねするのではなく、自分たちの会社のビジネスモデル、フェーズ、目指している事業の方向性を鑑みてどう動いていくべきかということを考える力、また「採用」だけを考えるのではなく「事業の特性とその時間軸」から、「それらを実現するための組織体」「それらを可能にするための採用活動」を考える大切さにあらためて気づいた経験でもあります。

 

経営メンバーを巻き込み、採用を進める

経営メンバーには、実際の採用業務の多くの部分を担ってもらいました。創業期は特に、自分たちのビジネスをどうしていくかを理解していなければどんな人を採るべきなのか分かりませんし、当然候補者も口説けません。加えて、経営メンバーの持つ事業への熱量が伝わらない、コミュニケーションに時間がかかり他社に取られてしまうといったことを避けたいという思いもありました。ただ、経営メンバーは当然ながら多忙です。そのなかで採用業務にも時間を割き、積極的に取り組んでもらうためには多くの工夫が必要でした。

まず取り組んだのは、実務面での負荷を減らすということです。私自身は、組織図を実現していくための最適な人員確保の入り口として、採用における人材要件を考えたり、職務経歴書から候補者のバックグラウンドをより細かく想像したり、アプローチのためのシナリオを考えたりするのが得意です。その作業自体は難度が高いものではありませんが、経営メンバーにそれを求めることはできません。私自身が進めるなかで見えてきたノウハウを定型化し、効率的に進めるためのポイントを伝える、スカウト文面のテンプレートを作成するなどの準備を行いました。

そして、採用活動に取り組む環境創りも行いました。良い方を採用するためには候補者を理解し、きちんと向き合い、どのようにクロージングまで持っていくか、またスピーディーに対応することも欠かせません。忙しいなかであっても職務経歴書にきちんと目を通してもらうために「この人をどう思いましたか?」と質問する、面接後にはすぐにフィードバックを求めるなど、採用に対してスピーディーに、真剣に取り組んでもらうことができるよう、日々さまざまな働きかけを行いました。また、途中で採用規模が大きくなり、一人でできる業務があふれ始めたことがありましたが、そこで拡張性に耐えることができるよう、「チームで採用できる環境創り」により力を入れ、業務の定型化をしていきました。

また、人事制度でも採用へのコミットを後押ししています。ラクスルでは職務がしっかり定義されており「経営人材は、人を採用し、組織を創ることができる人材である」ことが役割とされています。したがって、ラクスルの経営メンバーやそれに準ずるような職位の人たちは、採用に対して通常業務として取り組むことがスタンダードだと捉えてくれています。

「タレント・アクイジション」を組織で実現する

このような取り組みを積み重ねてきた結果、ラクスルは多くの仲間を迎えることができ、今では正社員で約60名の組織になっています。

しばらくの間は経営メンバーと私で採用業務を進めていましたが、採用数を伸ばしていくにつれ業務量が増え、体制を強化する必要が出てきました。その際、採用担当を増やすだけでなく現場の部長陣が採用業務を行う体制にすることを決めたのも、自分の事業、チームに欲しい人を理解している人が採用活動を行うことを重視しているためです。

ラクスルにおける採用業務は、多岐にわたります。全社で採用活動に向かうための体制創りや日程調整、クロージングのためのフォローはもちろん「自社が採用市場からどのように見られているか」を把握し、採用広報を通じて会社の状況や求めている人材像を正しく伝えていくことも行います。以前はエンジニアの採用に苦戦した時期もありましたが、「なぜか」という情報を幅広く集め、決して印刷サービスを提供しているだけではないということや、シェアリングエコノミー企業としての事業モデルやその面白さ、どのようなエンジニアチームがいるのか、どのようなテクノロジーを用いているのかなどを採用系のメディアやイベント登壇を通じて伝えていくようにしました。このような活動も非常に大切だと気付き、現在は採用広報を強化しています。

 

タレント・アクイジションこそが、事業を継続させる強い組織をつくる

タレント・アクイジションを始めること、経営・事業戦略と一貫性のある採用活動を行うことは決して簡単ではなく、時間もかかると思います。実際、ラクスルですと着手からここまでの成果が出るまで3年ほどかかっています。それでもここまで進めてくることができました。それは、事業を大きく・良くしていきたいという思いと、そのためには強い組織づくりが最も重要だとの確信があったからです。

事業は人が創ります。その「人」を自分たちが主体的に動き、獲得していかなければ、事業に継続性がなくなってしまう。タレント・アクイジションこそが強いチームをつくる手段であり、事業目標を達成できる強い組織創りを最先端で担える最高にエキサイティングな仕事だと考えています。これからの企業活動において絶対に必要な組織であることは間違いない。私はそう、考えています。


インタビュアーによる解説

採用に対する考え方を創業期から啓蒙できたことは注目すべき点です。ベンチャーにおいて、特に初期の採用は大きな意味を持ちますが、組織が拡大するにしたがって、採用に対する意識はどうしても薄れていきます。その点ラクスルでは、採用の重要性を啓蒙し、経営層を常に巻き込んでいくことによってこれを維持しました。その結果として人事評価への組み込みが行われています。文化がないなかで評価に組み込んでも決してうまく回りません。採用の重要性が明文化されているからこそ、新しく入社した社員も重要性を理解し、取り組んでいます。

一方で、これらはベンチャー以外にはできないことなのでしょうか。決してそのようなことはないはずです。例えば、自社の新規事業など、人材が事業のレバレッジポイントである分野、特にじっくり計画を組み立てるよりもスピードが重視される事業から行ってみるということもできるのではないでしょうか。そのような事業では、採用の体制をきっちり組むよりも、まずは優秀な人材を採用し、成果を上げる仕組み創りが重要なポイントになります。

本文では割愛していますが、インタビューでは河合様の人となり、キャリアもお伺いしました。確かに人材系の会社での経験などは実行に活かされたでしょうが、私が注目したのは河合様自身が「もし、自分が○○の社長だったらどうするか」という思考をさまざまな場面で繰り返し行われていたことです。経営陣とのミーティングでは「ラクスルは5年後どうなっているか」という投げかけもされたと伺っていますが、これに答えるためには、自社・競合他社のビジネスモデルの把握、自社を取り巻く環境の分析といったさまざまな情報・知識が必要になります。この記事をお読みの方のなかには、目の前では求められないことで必要ないと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、必要となったときのために、普段からトレーニングで備えておくこともできるのではないかと考えます。

インタビュー・文:ビズリーチHR研究所 金澤元紀


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