人事も変革迫られる今、激動の時代に際立つ「戦略人事」とは 〜実行への要所〜
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ここ数年、あらゆる業種・分野で業務改革が迫られています。その代表的な分野が人事です。企業活動の価値を生み出し業績を左右する「人材」という最重要資源をマネジメントする人事部門の変革は、企業のさらなる成長のために避けては通れないテーマになってきているといえます。

ビジネスの成長ドライバーとして重要な鍵を握る人事に関して、ここでは注目が高まる「戦略人事」の考え方と実践へのポイントを解説します。

戦略人事が求められる背景。環境変化により変わる、人事の「当たり前」

国内市場の縮小・成熟化、激化するグローバル競争、労働力人口の減少、働き方の多様化、雇用の流動化……。経営環境が変化するさなか、人事部門に求められる役割はますます幅広くなり、その業務はより戦略的なものへと変わってきています。技術革新の変化スピードの速さも相まって、その流れは顕著です。

たとえば採用活動では、少子高齢化と人口減少による労働力不足が深刻になる一方、グローバル化の進展による企業間競争の激化や事業ライフサイクルの短期化が進み、人材の高度化、多様化への対応が求められ、多くの企業が人材獲得競争に苦戦している状況があります。さまざまな要因が重なり、従来型の採用手法では人材確保が難しくなり、人材紹介やリファーラル採用、またあらゆる手段を主体的に考え、能動的に実行するダイレクトリクルーティングなどの選択肢から、いかに自社の採用課題に最適な手法を取り入れていけば良いのか、自社の課題に合致した採用戦略の立案に課題を抱く企業が増加しています。

また、人材マネジメントの面では、個人の価値観や働き方へのニーズの多様化に合わせた雇用体系・勤務体系の確立に加え、雇用の流動化が進むビジネス環境において優秀な人材をいかに自社に引き留めておくかも重要な検討事項です。個々の能力や適性を把握し、多様な人材が意欲的に仕事に取り組める職場風土や仕組みの整備も必要になるでしょう。

経営に影響をもたらす外部要因に加え、これに対応するスキルや知識の複雑化・高度化などの内部要因も踏まえた包括的な人材戦略のもと、人材育成、人事制度、組織開発も含めて、さまざまな選択肢を複合的に見直すことが迫られる今、年功主義に代表される旧来型の慣習にとらわれてしまっていては、最も重要な経営資源である人材を有効活用することができません。そのために必要なのが、環境が急変しても時機を逃さず柔軟かつ能動的に対応する適応性や多様性を備えた競争優位の確立です。

こうした背景から、これまで慣れ親しんできた制度・施策・システム(旧来型の日本的人事)を脱し、経営上の成果を見据え、人事から強い企業を作るキーポイントとなる「戦略人事」という言葉に、今、大きな注目が集まっています。

求められるのは経営戦略を支える人事。強い企業をつくる戦略人事とは

経営や事業への貢献のため、企業が変革を求めるのであれば、「戦略人事」へのシフトは急務です。

戦略人事とは、企業の経営環境や人材獲得競争が激化するなかで、1990年代に人事研究の世界的権威であるデイビッド・ウルリッチなどによって提唱された「事業戦略の実現をサポートする戦略的な人事に転換すべきである」という考え方、あるいは従来の管理・オペレーション業務を中心とした人事から経営戦略と人材マネジメントの連携・連動により競争優位を確立する、人事部門の役割や機能を包括的に表す概念です。

これまでの人事部門は、労働条件や勤怠などの労務管理、人事制度の運用やメンテナンス、採用・異動、昇進・昇格などの調整といった定型的な管理やオペレーション業務が中心とされ、経営において戦略やビジョンに直接的に介入し貢献する側面は多くありませんでした。また、経営側や現場からも独立している人事部門も少なくなかったのが実情です。

これに対して、自社の目標を達成するための枠組みである経営戦略を深く理解し、人事部門が戦略やビジョンを持ったうえで、人材の育成や適正配置、プロジェクト管理、規制への対処、企業文化の醸成、従業員の意欲に対する問題の対処などの各人事施策に落とし込み実践していくのが「戦略人事」です。

いわゆる「日本的な人事部門」はオペレーション業務を中心とした労務部門・法務部門では非常に有能ですが、現在求められているのはそれだけではありません。従来の人事の強みを土台としつつ、専門知識を生かして経営に関する目標と長期的ビジョンの実現を担う戦略パートナーとしての機能を有することが必要とされています。

こうした人事の側面は以前より指摘されてきましたが、昨今のビジネス環境の変化を受けてあらためて重要視されています。戦略人事は、GEをはじめとした危機意識の高い外資系企業だけでなく、今では日系企業でも広がりを見せてきています。事実、『日本の人事部 人事白書2017』での4,061社への調査によると、94.3%の企業が「戦略人事は重要である」と認識しているのです。

言うは易し、行うは難し。「戦略人事」を阻む壁

とはいえ、これまで長年慣れ親しんできた制度・施策・システム(従来型の日本的人事)を変えるのは、そう容易ではないのも事実です。

実際、「戦略人事」のグランドデザイン(設計図)を描けている企業は依然として少なく、同調査でも戦略人事として活動できている企業はわずか32.2%にすぎないと報告されている状況があります。裏付けとなる制度・施策がとぼしいため、構想はあっても抽象的なレベルにとどまるなど、実現性において疑問視する声も少なくありません。また経営側が人事部門を戦略パートナーとして認めていないといったことも「戦略人事」の浸透を阻む要因です

人事部門の仕事、現場、経営戦略、この3つをリンクさせていくには何が必要なのか。経営や現場で起こっていることを人事に落とし込むためのキーポイントとして位置付けられるのが、最高経営責任者(CEO)と連動し、「戦略人事」のグランドデザインを描き、人と組織の面で経営者や部門責任者を支援する、「最高人事責任者(CHRO=Chief Human Resource Officer)」の存在です。

戦略人事のキーパーソンとなるCHRO。その果たすべき役割と存在価値とは?

「CHRO」とは、企業における経営幹部の一人として人事機能を統括する存在です。経営戦略と一体となった人事戦略の推進者として、経営と社員の双方をサポートする役割を指します。日本ではCHROではなく「取締役人事部長」「執行役員人事部長」といった名称が用いられることもありますが、いわゆる従来型の人事部門のトップである人事部長とは、取締役として経営に参画する点において、権限の大きさに違いがあります。

CHROが果たす役割は企業によりさまざまですが、基本的には経営戦略の立案にまで積極的に関与することを強く求められる立場にあり、自社や競合のビジネス状況を理解し経営戦略の達成のための組織づくりに深く関わっていきます。管理業務を中心とする、経営陣によって定められた人事施策を担い企業価値を伸ばしていく従来型の人事部長との大きな違いは、業績向上につながる行動を予測、分析、指示し、人材戦略やマネジメントを企画立案・実行する点です。

その職務は、従業員の満足度や仕事への熱意、福利厚生、報酬、ダイバーシティなど通常の人事業務の監督にとどまらず、たとえばCEOやCFOが策定する三カ年計画と年次予算に対する目標の見極めから、組織の実績が目標を下回る原因の究明、競合他社の人事変化(インセンティブ制度、離職率、新規採用分野)による影響の予測、適材適所の実現度合いと配置された人材の現実的な視点での評価などにも及びます。人事分野の知識をもとにして、CEOやCFOと協力しながら会社の業績数値と密接に関連する指標や施策遂行の妥当性を検討していくのがCHROです。

経営と人材・組織を一体的に捉え、目標達成の核となる「ヒト」と組織内の関係性の機能不全をあぶり出していくこと。CHROは、将来に目を向けて大局観を持ち、戦略と長期ビジョンを持って現場と経営に介入し、人事部門と業務をつなぐ存在であり、戦略人事の実現において大きなポイントになります。

戦略人事を実現するために。人事、現場、経営をつなぐ鍵となるデータ活用

昨今では、HR(ヒューマンリソース)の領域でもさまざまなテクノロジーが生まれ「ビッグデータ」や「データドリブン経営」といったキーワードへの注目度が高まっていますが、戦略人事の実現に向けて、CHROとともに重要になるのが「データ」の存在です。

不確実性が増す時代の経営では、データ(事実)に基づいた客観的な基準をもとにPDCAサイクルを回し、組織としての判断精度を向上させていくこと、不確定要素を排除し、勘に頼らない意思決定が求められます。

そのため、定量的な根拠なしに、経営や現場に介入するのは難しい行為といえます。人事部門においても例外ではなく、経営レベルで一定の発言権を維持・獲得するためには、業務プロセスの進捗状況を計測し、データによりパフォーマンスを改善する科学的なアプローチを用いるなど、業務の進め方の変革が必要になります。

実際、企業が戦略人事を実現するために行われる取り組みが、経営陣にそれほど高く評価されないといった声も少なくありませんが、経営戦略において、その取り組みがどのようにつながっているのか、人事部門から明確な説明がないこともその一因です。

たとえば、的確な現状把握ができていない、提案に客観的な根拠がない、施策状況が可視化されていないために成功の再現性が低い、失敗要因が検証されず改善策に妥当性を確認できないなど、説得力に関する事柄です。

勘や経験を人材採用やマネジメントに生かすことは一概に悪いことではありませんが、ビジネスプロセスと評価指標から経営の意思に人事機能をより適切に乗せ、人事部門が自らビジネスへの貢献度と存在意義を実証することが肝要です。


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